1億円の壁

posted by 2022.10.21

kabe_tachimukau

 年末の税制改正大綱に向けて議論が進められており、ニュースにも取り上げられますが、そんな中で出てくる言葉に「1億円の壁」があります。
これはどういった意味なのでしょうか。

 

 所得税は所得が大きいほと税率が高くなる超過累進税率の仕組みになっています。
所得から各種控除額を引いた課税所得が195万円以下なら5%、330万円以下なら10%、695万円以下なら20%と上がっていき、4000万円以上なら45%と階段状になっています(復興特別所得税2.1%は簡略化のため省略)。
これとは別で住民税が10%あるので最高税率は55%と半分以上になります。

 

 ただし階段状になっているので、単純に4000万円 × 45%=1800万円となるわけではありません。税率が低い部分も考慮すると4000万円の場合の所得税は1320万4千円になり、平均すると約33%になります。

 諸々の条件を考慮すると平均的な所得税負担率は、2.8%からスタートして1000万円で10.8%、2000万円で18.5%と上がっていき、1億円で28.8%に達します。
ここからさらに上がるかと思いきや、3億円で25.3%、10億円で22.6%と逆に下がっていきます。
このように所得1億円を境に実質的な税負担率が下がっていくこと「1億円の壁」と呼んで財務省では問題と考えています。

 

 所得が増えるほど税率が上がる超過累進税率のはずなのでなぜこんなことが起こるのでしょうか。
理由としては不動産や株の分離課税の税率があります。
不動産の譲渡所得の税率は5年以下の短期で30%(+地方税9%)、5年超の長期で15%(+地方税5%)、株の場合は15%(+地方税5%)です。
実際の所得1億円超の人の所得の内訳は、給料の約2割に対し、株や不動産の売却益が6割を超えており、平均的な税率を引き下げています。

 

 では株の売却益への税率を上げるかと言うと話はそう単純ではありません。
NISA拡充など投資へのお金の流れを増やすことも議論されていますし、税率が上がるとなると急に株式を売る動きが増えて株式市場を混乱させるかも知れません。

 

 株の売却益への課税に関しては、M&A、事業承継、相続対策などいろんな部分に影響があるだけに今後の議論の行方が注目されます。