事業承継税制の特例 ⑥ 一般措置と特例措置の違い(後編)

posted by 2022.09.2

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 前回の続きで事業承継税制の特例措置について見ていきます。

 

6.雇用確保要件

・一般:承継後5年間は平均8割の雇用維持が必要
・特例:弾力化

 特例では8割を下回った理由を記載した報告書を知事に提出すればいいだけで、下回ったことを理由に納税猶予が取り消されることはありません。

 

7.事業継続が困難な場合

・一般:規定なし
・特例:免除あり

 事業継続が困難な場合とは、「過去3年間のうち2年以上赤字または売上減、有利子負債≧売上の6か月分、類似業種の上場企業の株価が前年の株価を下回る、心身の故障等により後継者による事業の継続が困難」のいずれかの状態を言います。
これらの理由により株を売った場合や会社を解散した場合には、猶予税額を再計算して株価が下がった分については免除されます。

 一般措置では業績が悪化して株を売却しても、元の猶予税額をベースに納付が必要でしたが、特例措置では実際の売却額や解散時に相続税評価額など払える額をベースに再計算されます。

 

8.相続時精算課税の適用

・一般:60歳以上の者から18歳以上の推定相続人(直系卑属)や孫への贈与
・特例:60歳以上の者から18歳以上の者への贈与

 違いが分かりにくいですが、事業承継税制の特例措置を使う場合、相続時精算課税が拡大されます。
相続時精算課税は身内だけが対象ですが、事業承継税制と組み合わせれば他人(親族外承継)でもOKです。
事業承継税制は贈与税が猶予されますが、要件を満たさなくなると納付する必要があります。事前に相続時精算課税を選択していれば税率は高くでも20%なので万が一の場合の保険になります。

 

 上記の中では、雇用維持要件が事実上撤廃されたこと(5)、全株が対象になったこと(2)、相続でも100%猶予されること(3)がメリットが大きいです。

 今はまだ株を渡す時期でないと考えている場合でも、後継者候補が決まっていれば令和6年3月31日までに特例承継計画は出しておいた方がいいでしょう。
その上で令和9年までに贈与すれば適用を受けられますし、パスすることもできます。

 

 事業承継は相続対策と同じで取っ掛かりまでのハードルが高く感じますが、期間限定の特例措置をきっかけにして、承継計画を作りながら検討してもらったらいいと思います。